企業にとってビジョンと戦略はとても重要です。この二者を混同しているケースが時々見られます。例えば、よく企業サイトにビジョンとして掲載されているものを見ると、戦略にまで言及しているものがあります。もちろん、その中には株主のために意図的にそうしているケースも多いでしょう。しかし、本来、ビジョンと戦略は全く違う意味合いのものです。では、その違いとはなんでしょうか。
どちらも競争に勝つためにあるものという点は共通していますので、戦争に例えてみましょう。私は、ビジョンは軍旗、戦略は進軍地図にあたるものだと位置付けています。軍旗は敵から良く見えますが、進軍地図は決して敵に見せてはいけません。軍旗は、自分たちが何軍かを示すものであり、そこには紋章や思想が書かれています。つまり味方を鼓舞して相手を萎縮させるものです。一方、進軍地図には、地形と布陣と進路が書かれていて味方が見てその通りに行動すれば、勝率が上がるものです。ビジョンは、人の心を動かすものなのでクリエイティブである必要があります。軍旗はデザインされ、キャッチコピーが書かれた広告とも言えます。戦略は科学的、論理的なもので決して感情に左右されない冷徹さを前提としています。
最も避けるべきは、軍旗に進軍図を記すことです。こう言うととても愚かな行為だと分かるので誰もやろうなどと思いませんが、企業における戦略となると、ついビジョンのドキュメントに戦略の一部を書い手嶋ったりします。そうしないとビジョンに説得力がない、実現性を示さない、などと言う見方もあるのですが、ビジョンはクリエイティブ、つまり簡潔で強い表現の方が良いのです。その方が競合他社はビビります。簡潔で強いビジョンをステイトするのは勇気がいる仕事です。しかしそれをできる人にだけリーダーの資格があります。逆に言うと、冗長でありきたりなビジョンしか示さないリーダーは失格なのです。
良い戦略には、通るべき進路の他に決して通ってはいけない進路が必ず明確に示されています。勝つ戦略は、負けない戦略を含んでいるということです。また、企業にありがちなのは、出来ることはなんでもやるというてんこ盛りの戦略です。リソースが無制限であればそれも実行可能な戦略かもしれませんが、有限なリソースを前提とした戦略においては優先順位と劣後順位が求められます。戦略は、必ずしもリーダー自身が策定する必要はありません。むしろ、市場環境が複雑化した現代では専門家の登用が好ましいとも言えます。しかしやってはいけないのは合議制の戦略策定です。時には相手の裏をかいて軍を進めるシナリオが必要な戦略においては、考え抜かれた精緻なシナリオでなくてはなりません。合議制で角の丸まった戦略は大体において敵に読まれてしまいがちです。
このように見ていくとビジョンと戦略はその意義が全く違うものであり、混同することにより競争に勝つどころか、負けるリスクを高めてしまうことが分かります。ビジョンはリーダーの文学力、戦略は企業の科学力が試されているとも言えます。